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FROM THE PRINCIPAL

  1. 園長通信
  2. 夏がくれば、想い出す

夏がくれば、想い出す

七夕の頃を過ぎると、年長組さんではお泊り会の準備が始まります。各クラスで話し合い、自分たちで考え、選択し、一つひとつ実行に移していきます。一泊二日の特別な日常の中で、子どもたちは五感を通し様々な体験を味わいます。いつもなら家族で過ごす時間帯に仲間や先生と生活する特別さ、夜の園舎のにおい、カレーとスイカの香り、協力して運ぶ布団の重さや肌触り、花火の閃光、眠気の中で遠く聞こえる読み聞かせの声、静寂....。
一夜明け、園庭の朝霧に眩いほど差し込む太陽光線の美しさ、ケチャップの甘じょっぱい風味とソーセージの美味み、りんごジュースの向こうに見えるホットドックをほおばる仲間の面々、自分たちで泊まれたのだ!という誇りと達成感。そして家族の懐かしいにおい、微笑みと安堵...。これらの貴重な感情経験は記憶となり心の中に落ちて行きます。

五感の中でも、とりわけ「嗅覚」は記憶や感情と関連が深いことがわかっています。少し難しい言葉であらわせば、他の4つの感覚は末梢(目、耳、皮膚、口)から脳の中に入り、視床を通って大脳皮質に投影され受容されます。一方、嗅覚は脳の中にダイレクトに入り、記憶や感情と関連が深い海馬や扁桃体に入っていくのです。フランスの作家プルーストの名作「失われた時を求めて」の中で、主人公はマドレーヌを紅茶に浸して食べたときに、それまで忘れ去られていた幼少期に同じようにして食べた体験、香り、味、情景を思い出します。お泊り会の体験は、映像、音、味、香り、声などの色々なものと合わさって、子どもたちの脳に入ります。それが、いつの日か大人になった時に何かのきかっけで合わさって出てくる、そのきっかけとなる要因の中で最も強いのが「嗅覚」というわけです。

夏の朝、明るい彩光で自然に目が覚め、ぼんやりとペパーミントの歯磨き粉を口の中で泡立てるとき、今から46年くらい前のお泊り会で、友だちとテイストの違う歯磨き粉を交換し口の中で泡立てた思い出、友だちのパジャマの模様や笑い顔があらわれます。松の木に見守られたニューライフのお泊り会での感情経験が子どもたちの将来をいつまでもより豊かに彩りますように...。七夕の笹に願いました。

松の枝の剪定は、夏の終わりころに行う予定です。猛暑から子どもたちを守ってくれたニューライフのシンボルに感謝をこめて。